本当に精神が参らないのが不思議なほどイッパイイッパイだったけれど、この世は100%嫌なことだけっていうことは、そうそうないかもしれない。
今度の部署は、会社の中核を担う部署で、今年おおきく会社の体制が変わり、取引先との関係も慎重になってくるときに、その対策を専門にするところ、らしい。
仲のいい先輩に、「お前みたいにウッカリなやつに、その仕事が務まるとは思えない」と真顔で言われたけれど、自分でも本当にそうだと思う。とにかく私はそそっかしい。緻密を極め、細心の注意をはらう仕事には向いていない。そんな能力マジでない。無茶だ。
せいぜい、顧客とみょうに仲良くなって、ある日突然「商売っ気ないのが気に行った!」と、億単位の契約をぽーんともらったり(リアルに私にはそんなつもりなかった)、そんな水モノのような仕事しかできない。
新人のころから面倒を見てもらった取引先におもむき、社長の指先のアカギレに真っ先に気づき、中座して薬局にオロナインを買いに行ったり。電話口でケンカになった(←オイ!)お客様が、交通事故にあったと聞いて、しょうがねえなあと交通安全のお守りを送ったり。そうしたら、客から「ありがとう。これからもよろしく」と、何かの紙を手でちぎったのにそっけなく走り書きされた手紙が送られてきて。5年も経つけれど、その手紙はまだ捨てずに会社の机にしまってあったり。あのオッサン元気かなぁ。頑固おやじだったなぁ。
あとは、いたずらっ子にチョコをあげたり(笑)
ぶっちゃけ、一切「ビジネス」にはいらん、不要なことばっかりに時間を費やしてきた。
私は、私にできることだけは、手を抜かずにやってきた。
でも、正直にいえば、本当にムダなことばかりだ。
なんのスキルアップにもなっていない。
あれだけ必死に勉強した資格も、次の部署では一切関係がない。
なにも重ねてこなかった。
ただ、誇れるのは 根性 だけである。
異動に当たり、所長に言われた。
「春雨がその部署に適していると考えた理由は、とにかく、客観的だよね」
ツッコミ気質なだけだし!!
「向上心があるし」
無能だから必死なだけだーーーー!!
「なにしろ、とにかく根性がある」
それだけが取り柄だーーーー!!
仲のいい先輩が、繰り返し「お前みたいに一人じゃ何にもできないやつが、少数精鋭部隊にいったてしょうがない」と言うので、「どうせ私なんて早くいなくなれって思ってるんでしょーーーー!」と言ったら「ウン」と即答された。
先輩ちょっとマジ入ってたと思う。
いつもいつも、本当にお世話になってたから。
いっしょに、ニャンマゲを見に連れて行ってくれた人だし。
そのまま帰宅したら、メールが来た。
さっきはイジメすぎてごめん、新しい部署に行って、もっと自分をみがきなさい、と書かれていた。
自分のできることと、期待されていることの差があまりにも激しくて、本当はどうしたらいいのかわからない。
そう弱音を吐いたら、
「お前が人の役に立とうなんて、10年早いよ(^^)」
という、メールが来た。
あんまりにも優しくて、泣きそうだった。
気負うなって。
ゆっくりでいいって。
そう言ってくれてるのが、ちゃんと伝わった。
「いつか先輩みたいに、後輩を守ってあげられる社会人になりたいです」
そう返信したら、返事は来なかった。
私の周囲の優しい人たちは、いつも優しくするのと突き放すのを同じ速度でやる、照れ屋ばかりです。
私はいつも思ったことを恥とも思わずストレートに言うので、照れた彼らにたいてい「ばか」と言われます。
「ばか」って言葉が、こんなに優しいと知ったのも、この先輩からでした。
この先輩ともう同じ場所で働けないのが、本当は、一番つらい。
お局は大嫌いだったけれど、この先輩がいたから戦えた。
私はいつだって、つらい時こそ、幸せだったかもしれない。