気合の入ったOLの擬態を・・・!と啖呵きったはいいけれど、結局へろっとした感じで一日が終わりました。
いや、終わろうとしていました。
夕方になり、社用の夕刊をとりに地下のメールボックスに下りたところ、呼び止められました。
「お嬢ちゃん!」
世界広しといえど、私をこう呼ぶのはオスカーとこのおじさんだけだ、という人がいました。
私の勤め先のオフィスビルの清掃員で、おん年ゆうに80を越えるという人。
朝夕に郵便や新聞をとりに地下におりるたび、いつしか顔見知りになりました。
そのおじさんが、「お嬢ちゃんの会社、人が動くんだって?」と心配そうに言いました。
来月3人も異動になるのを、どこからか聞いたらしい。
「そうなんですよ、ずっといらした○さんとか、△さんが・・・」と説明しだす私の両手を、おじさんはがっしと掴み「お嬢ちゃんはどこにも行かないよね?」と言ってきたので、一瞬なにごとかと思考が止まりました。
「もしお嬢ちゃんがいなくなっちゃうんだったら、おじさん、上(弊社の入居しているフロア)まで乗り込んで引き止めるからねっ」と、あくまで真顔。
もともと顔見知りで仲良くしてもらっていたけれど、あくまで社外の人、ここまで別れを惜しまれるほどのツキアイではない・・・はず、なのだけれど、このおじさんとはちょっと訳があります。
昨年の終わり、うちの会社で主催した飲み会に、普段お世話になっているから、と、清掃業者や納品業者をまねいた折、このおじさんに手招きされて隣に座りました。
そして、いつも元気に挨拶してくれてありがとうね、と改めて言われてびっくりしたのが記憶に新しい。
お嬢ちゃんにオハヨウっていうのを楽しみに働いてるんだよ、と仰るので、内心「またまたぁ・・・」と思いつつ、にっこりとありがとうございますー等と愛想良く応じていたのですが・・・
おじさんがふっと寂しそうに笑って声を潜めたときがありました。
そして教えてくれました。
おじさんには、ずっと養護施設に入っている、一人息子さんがいるのだそうです。
奥さんに先立たれ、家族はその息子さん一人しかいないのだけれど、施設に入っていることからもわかるように、普段なかなか会えないのだそうです。
息子さんを食べさせるために、80過ぎてもこうやって清掃員として雇ってもらっているんだ、もし孫がいたらお嬢ちゃんくらいかなぁ、なんて思いながら、見てたんだよ、と、ニコニコニコニコ、おじさんは笑うんです。
そして、このお正月には、久々に息子さんは施設から帰ってきて、親子で温泉に行くんだ、それがまた楽しみでねぇ、と、心底嬉しそうにおじさんが笑うものだから、こっちは両の目から涙が止まりませんでした。
泣く私に、それでもおじさんはニコニコと、ありがとうね、ありがとうね、と繰り返すものだから、もうこっちはたまりません。しばらく泣き止まなかった。
そもそも、私が新人OLのころ、給湯室でべそべそ泣いていると、清掃員のおばちゃんがポッケから飴玉をだしてくれて、黙って背中をぽんぽん、とやってくれたり、なんだか清掃員さんにはものすごく優しくしてもらった記憶しかありません。
もし私がそういう経験をしていなかったら、普段のオフィスビルに清掃員さんがいても、挨拶どころか気にも留めなかっただろうと思います。
このおじさんの他にも、毎日時間帯によって入れかわり立ちかわり、色々な人が清掃員としてオフィスビルで働いています。
挨拶したときの返事がカタコトで、ああ、日本の人じゃないんだ、という人もさまざまに。誰も見ていないというのに一生懸命に窓を磨いたり、廊下をクリーニングしてくれたり、ゴミを運んだりしてくれています。
社会人生活が長くなると、一瞬だけ「ほら、私もまんざらじゃなく、ちゃんと仕事できてるじゃん」と思い上がるときがありますが、そういう時、廊下で清掃員さんたちを見ると、ふっと冷静になります。
私の見ていないところでこれだけ支えてもらってる、この人たちが朝早く、夜遅く、目に付かないところで一生懸命オフィスを綺麗にしてくれてる、だから働けてる、忘れちゃいけねえ、と思い上がった自分を叱っています。
その人にお礼を言って別れたあと、おっしゃ、腐ってる場合じゃねえ、おじさん、アタイ頑張るぜ!とひそかに誓ったりしました。
私もおじちゃんみたいに、80過ぎても、毎日誰かに「ありがとう」って言いながらすごしたいなぁ、とひそかに憧れです。
絶対に、誰にでもできることじゃない。と思う。私は。
いや、終わろうとしていました。
夕方になり、社用の夕刊をとりに地下のメールボックスに下りたところ、呼び止められました。
「お嬢ちゃん!」
世界広しといえど、私をこう呼ぶのはオスカーとこのおじさんだけだ、という人がいました。
私の勤め先のオフィスビルの清掃員で、おん年ゆうに80を越えるという人。
朝夕に郵便や新聞をとりに地下におりるたび、いつしか顔見知りになりました。
そのおじさんが、「お嬢ちゃんの会社、人が動くんだって?」と心配そうに言いました。
来月3人も異動になるのを、どこからか聞いたらしい。
「そうなんですよ、ずっといらした○さんとか、△さんが・・・」と説明しだす私の両手を、おじさんはがっしと掴み「お嬢ちゃんはどこにも行かないよね?」と言ってきたので、一瞬なにごとかと思考が止まりました。
「もしお嬢ちゃんがいなくなっちゃうんだったら、おじさん、上(弊社の入居しているフロア)まで乗り込んで引き止めるからねっ」と、あくまで真顔。
もともと顔見知りで仲良くしてもらっていたけれど、あくまで社外の人、ここまで別れを惜しまれるほどのツキアイではない・・・はず、なのだけれど、このおじさんとはちょっと訳があります。
昨年の終わり、うちの会社で主催した飲み会に、普段お世話になっているから、と、清掃業者や納品業者をまねいた折、このおじさんに手招きされて隣に座りました。
そして、いつも元気に挨拶してくれてありがとうね、と改めて言われてびっくりしたのが記憶に新しい。
お嬢ちゃんにオハヨウっていうのを楽しみに働いてるんだよ、と仰るので、内心「またまたぁ・・・」と思いつつ、にっこりとありがとうございますー等と愛想良く応じていたのですが・・・
おじさんがふっと寂しそうに笑って声を潜めたときがありました。
そして教えてくれました。
おじさんには、ずっと養護施設に入っている、一人息子さんがいるのだそうです。
奥さんに先立たれ、家族はその息子さん一人しかいないのだけれど、施設に入っていることからもわかるように、普段なかなか会えないのだそうです。
息子さんを食べさせるために、80過ぎてもこうやって清掃員として雇ってもらっているんだ、もし孫がいたらお嬢ちゃんくらいかなぁ、なんて思いながら、見てたんだよ、と、ニコニコニコニコ、おじさんは笑うんです。
そして、このお正月には、久々に息子さんは施設から帰ってきて、親子で温泉に行くんだ、それがまた楽しみでねぇ、と、心底嬉しそうにおじさんが笑うものだから、こっちは両の目から涙が止まりませんでした。
泣く私に、それでもおじさんはニコニコと、ありがとうね、ありがとうね、と繰り返すものだから、もうこっちはたまりません。しばらく泣き止まなかった。
そもそも、私が新人OLのころ、給湯室でべそべそ泣いていると、清掃員のおばちゃんがポッケから飴玉をだしてくれて、黙って背中をぽんぽん、とやってくれたり、なんだか清掃員さんにはものすごく優しくしてもらった記憶しかありません。
もし私がそういう経験をしていなかったら、普段のオフィスビルに清掃員さんがいても、挨拶どころか気にも留めなかっただろうと思います。
このおじさんの他にも、毎日時間帯によって入れかわり立ちかわり、色々な人が清掃員としてオフィスビルで働いています。
挨拶したときの返事がカタコトで、ああ、日本の人じゃないんだ、という人もさまざまに。誰も見ていないというのに一生懸命に窓を磨いたり、廊下をクリーニングしてくれたり、ゴミを運んだりしてくれています。
社会人生活が長くなると、一瞬だけ「ほら、私もまんざらじゃなく、ちゃんと仕事できてるじゃん」と思い上がるときがありますが、そういう時、廊下で清掃員さんたちを見ると、ふっと冷静になります。
私の見ていないところでこれだけ支えてもらってる、この人たちが朝早く、夜遅く、目に付かないところで一生懸命オフィスを綺麗にしてくれてる、だから働けてる、忘れちゃいけねえ、と思い上がった自分を叱っています。
その人にお礼を言って別れたあと、おっしゃ、腐ってる場合じゃねえ、おじさん、アタイ頑張るぜ!とひそかに誓ったりしました。
私もおじちゃんみたいに、80過ぎても、毎日誰かに「ありがとう」って言いながらすごしたいなぁ、とひそかに憧れです。
絶対に、誰にでもできることじゃない。と思う。私は。
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